こんにちは、イドミツです!
今回も数年前に読んだ本のレビューを書きたいと思います。
その名も
『名著で学ぶ戦争論』(石津朋之[編著]・日本経済新聞出版社)
です。
「戦争論なんて物騒な。」とか思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、平和のためには、戦争を理解している必要がありますよね。
それよりも何よりも、戦争は人が集団で行う最大級の営みの1つであり、そこから純粋な「知」を導き出すのは、純粋に興味深くはないでしょうか?
その知は、自分や大切な人の「安全保障」や「繁栄」に活かすことができると思います。
もくじ
名著で学ぶ戦争論とは?
一言で言うなれば、本書は、
【古今東西の軍事戦略に関する50の名著のエッセンスを解説する本】
です。
国家戦略や経営戦略の分野で、孫子やクラウゼヴィッツなどの軍事戦略家の考えがさまざまに応用されている現代ですが、この本で「戦略」に関する理解を手軽に深めることができます。
名著で学ぶ戦争論の執筆者たち
本書の執筆者を紹介します。
【石津朋之】日本の歴史学者であり、防衛省防衛研究所戦史研究センター長 併 国際紛争史研究室長。
【永末聡】「歴史と戦争研究会」事務局。<主な著書>『エア・パワー――その理論と実践』(共著、芙蓉書房出版、2005年)
【塚本勝也】防衛省防衛研究所政策研究部防衛政策研究室主任研究官。専門は、安全保障論。
【中島浩貴】東京電機大学理工学部共通教育群講師。専門はドイツ近現代史、軍事史。
本書の注目ポイント
本書の中から、現代人の生活に活かせるポイントを要約します。
トゥーキュディデース『戦史』による戦争の原因
この名著は、なんと紀元前431年に始まったペロポネソス戦争をリアルタイムに記録したものなのですが、
戦争が起こる原因を
- 利益
- 名誉
- 恐怖
という3つの要素に特定しています。
ビジネスやスポーツでもこの要素は非常に重要ですね。
カエサル『ガリア戦記』による司令官に必要な資質
紀元前100年に生まれ、共和政ローマの実権を握った政治家カエサルですが、積極的に戦争の指揮をとっており、
戦争において司令官は、
- 武勇
- 忠誠
- 名誉
- 怯懦
- 不安
- 運
- 恐怖
- 残酷さ
- 責務
- 時間
といった要素に注意を払うことの重要性を説いています。
リーダーシップには、不可欠な視点です。
マッキンダー『マッキンダーの地政学』による「ハートランド理論」
この名著を著したハルフォード・ジョン・マッキンダーは、1861年に、イギリスで医者の長男として生まれ、オックスフォード大学で学んだ地理学者です。「地政学の父」とも呼ばれます。当時のイギリスは海外に広大な植民地を獲得した大英帝国でした。
彼の「ハートランド理論」を一言で説明すれば、
【戦略上の利点を多く有している地域を支配する者が世界を支配する】
というものです。
彼の言うハートランドは、ユーラシア大陸の内陸部です。
現代では宇宙空間に応用され、膨大な資源をもつ太陽系がハートランドであるとみなされ、衛星軌道を支配する者がその太陽系を支配するという見方があります。
実際、アメリカは偵察、情報収集、ミサイルに対する早期警戒システムのための衛星によって軍事分野で圧倒的優位に立っています。
ポジション取りって、大切ですよね。
孫子『孫子』による目的の達成法
『孫子』は今から約2500年前にまとめられたと考えられています。それが、現代で知名度の高い書になっているのですから驚きです。名著中の名著ですね。
薄い文庫本で読めるので、個別に読むのもおすすめです。名言だらけの『孫子』ですが、その一大テーマは、
【戦わずして人の兵を屈すは善の善なる者なり】
という言葉に表れています。理想のヴィジョンは、戦うことなく相手をてなずけることなんですね。
そのために、戦術レベルでは、敵の主力との正面衝突を避け、情報戦を行いながら奇襲を仕掛けて、敵を分断し、各個撃破することを説いています。
ビジネスで言えば、ライバルが強かったり飽和した市場に正面から突入することを避け、広告・SNS・パブリシティで情報戦を展開しつつ成果を積み上げることに応用されていますよね。
少し話は逸れますが、格闘家の那須川天心選手は、『孫子』の戦術を体現しているのではないでしょうか。ステップを使い相手の攻撃をもらわずに、スピードとフェイントで相手の頭脳を混乱させつつ奇襲を繰り返しますよね。
最小限のコストで最大限のメリットを得るというヴィジョンをもっておくことは、目的達成においてとても重要ですね。
マキアヴェリ『君主論』による政治の本質
1469年に生まれた官僚政治家となったニコロ・マキャベリですが、「政治に道徳は不要である」と延べたことで批判も多いです。
しかし、彼が論じたかったのは、【どうやって強力な国家をつくるか】だったようです。
彼は政治権力の源泉を軍事力と考えており、政治を安定させるために適した方法は、君主が民衆の支持を得て、その民衆から軍隊を編成することでした。
大衆の支持を集めて、それを自らのパワーとする。
現代では政治家や経営者だけでなく、SNSのインフルエンサーもフォロワーや登録者数によってこれを体現してますよね。
クラウゼヴィッツ『戦争論』による目的と不確実性の認識
この名著を著したのは、1780年に生まれ、プロイセン・ドイツの軍人であったカール・フォン・クラウゼヴィッツです。
彼は、戦争は政治の延長であると定義しました。
戦争は、政治的目的を叶えるための「手段/ツール」ということですね。
暴力が本質的な目的である戦争(彼はこれを「絶対戦争」と呼んだ。)は存在しないからこそ、政治的目的、人の精神や天才の出現を含む不確実性(「摩擦」)というフィルターを経ることで、現実には「制限戦争」となる。
また彼は、戦争を政治、軍事、国民というを3つの要素が織りなす社会現象として捉えており、戦争における三位一体として知られています。
精神状態や才能で状況が変化することはありますよね。
ブロディ『戦争と平和』による役割分担の重要性
1910年にアメリカのシカゴで生まれたバーナード・ブロディは、アメリカの戦略研究家の第1世代に属すと言えます。
彼は、シビリアンコントロールの重要性を理解していました。
クラウゼヴィッツは、政治・軍事・国民を戦争の3要素として述べましたが、
ブロディは、軍事を担う軍人の最大の目的は勝利であることから、軍人が戦略の立案に不向きであることを見抜いていました。
政治目的の達成のためには、文民としての政治指導者が戦略の立案を担い、軍を統制すべきであるということです。これが、現代日本の政治でも常識となっているシビリアンコントロールですね。
組織があれば、そこには存在目的があるので、それに適した役割を担うように制限することの重要性を思い出させてくれる名著です。
マハン『海上権力史論』によるのビジネスチャネルの重要性
アルフレッド・セイヤー・マハンは、1840年に生まれたアメリカの軍人であり、戦略研究家でした。
彼は、陸路と比較した海上輸送の効率の良さに注目し、大英帝国が繁栄した要因を分析しました。その結論が「シーパワー」です。
シーパワーとは、海上軍事力だけでなく生産・海運・植民地からもたらされる力を含んだ概念です。
イギリスは、シーパワーによって、軍事力だけでなく、地理的特徴、領土の範囲、住民の数、国民性、政府の性格といった国力を高めていたのです。
ネットの時代では通販が隆盛ですが、販売チャネルの支配は大事ですね。
名著で学ぶ戦争論レビューのまとめ
人類の歴史としてもとても興味深い内容であるだけでなく、現代人がビジネスやスポーツに生かせるような知識や考え方のエッセンスがまとめられていることが伝わったでしょうか?

名著で学ぶ戦争論(日経ビジネス人文庫)
参考になれば幸いです。
ではまた!
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